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インフラを「枯山水」にする:複雑化というエントロピーに抗い、捨てるべき技術と機能

インフラエンジニアの仕事は、しばしば「庭師」に例えられます。 放っておけば、雑草(管理されていないサーバー)が生い茂り、蔦(複雑な依存関係)が絡まり合い、やがて誰も足を踏み入れられないジャングルと化します。

AWSやAzureなどのクラウドが普及し、「リソースを作る」ハードルが下がったことで、このジャングル化の速度は劇的に加速しました。 「テスト用に作った環境」「念のためのバックアップ構成」「一時的な迂回ルート」。 これらが積み重なり、地層のようにシステムを肥大化させています。

一人情シスが生き残る道はただ一つ。 足し算ではなく「引き算」の設計をすること。 ジャングルではなく、石と砂だけで構成された「枯山水」のような、極限までシンプルなインフラを目指すことです。

本稿では、インフラをシンプルに保つために、何を「捨てる」べきなのか。その具体的なリストと、捨てるためのマインドセットを提示します。

なぜ、インフラは「汚れる」のか

構成図がスパゲッティ化する原因は、主に3つあります。

  1. 「念のため」症候群 「将来使うかもしれないから」「一応バックアップのバックアップも」という過剰な不安が、不要なリソースを生み出します。
  2. 「仮設」の恒久化 「急ぎなので、とりあえずセキュリティグループを全開放で」と作った設定が、そのまま数年間放置されるパターンです。
  3. 技術の継ぎ足し(秘伝のタレ化) 古いVPN装置を残したまま、新しいゼロトラスト製品を導入する。新旧のシステムが並走し、経路が複雑怪奇になります。

これらは全て「運用コスト」として、将来のあなたの時間を奪います。

捨てるのが怖いあなたへ

「動いているものには触るな」は、IT業界の金言ですが、同時に呪いでもあります。 不要なものを残すことは、攻撃対象領域(アタックサーフェス)を広げ、維持費を無駄にし、何より「システム全体像の把握」を妨げます。

捨てることは、リスクではありません。「管理可能性を取り戻す」ための投資です。

迷わず「捨てていい」リスト

では、具体的に何を捨てるべきか。100〜300人規模の企業においては、以下はオーバースペック、あるいは有害な複雑性です。

1. 「検証環境(Staging)」を捨てる

もちろん、基幹システムや全社影響のあるアプリには必要です。しかし、 「社内ツールのちょっとした改修」や「情シス用の管理スクリプト」にまで、本番と同等の検証環境を用意していませんか?

【推奨】 影響範囲が限定的なら、ローカル環境でテストして、いきなり本番反映(Blue/Greenデプロイができればベスト)で構いません。 「検証環境の維持・同期」にかかるコストが、バグが出た時の修正コストを上回るなら、検証環境こそが負債です。

2. 「お手製の監視ダッシュボード」を捨てる

ZabbixやGrafanaを構築し、CPU使用率やメモリを美麗なグラフで見れるようにしていませんか? そして、そのグラフを毎日見ていますか?

【推奨】 見ていないグラフは捨てましょう。 クラウド標準の(AWS CloudWatchなどの)質素なグラフで十分です。 本当に必要なのは「グラフ」ではなく、「死んだ時に叩き起こしてくれる通知」だけです。 「可視化」自体を目的にしてはいけません。

3. 「過剰なネットワーク分割」を捨てる

「サーバーセグメント」「開発セグメント」「総務セグメント」「営業セグメント」……。 真面目なエンジニアほど、VLANを細かく切りたがります。 しかし、その間の通信制御(ACL/Firewall)の管理で、設定変更のたびに苦しんでいませんか?

【推奨】 エンドポイントセキュリティ(各PCのEDRなど)がしっかりしていれば、ネットワークはもっとフラットで構いません。 ゼロトラストの時代、ネットワーク境界で守る発想自体が古くなりつつあります。 「社内LANは信頼できない場所(インターネットと同じ)」と割り切れば、細かなVLAN設計は不要になります。

4. 「自前メールサーバー」を捨てる(これは絶対)

PostfixやSendmailを自前で運用しているなら、今すぐ捨ててください。 迷惑メール判定の回避(SPF/DKIM/DMARC対応)、ブラックリスト入りの監視、セキュリティパッチ。 これらを一人で完璧にこなすのは不可能です。メールが届かないことは、ビジネスにおいて致命的です。

【推奨】 Google Workspace、Microsoft 365、あるいはSendGridなどの配信専業サービスへ。こればかりは「意地」を張る場所ではありません。

「捨てる」ことが未来をつくる

不要な機能を捨て、構成がシンプルになると、何が起きるか。

  • 障害対応が速くなる:見る場所が減るからです。
  • 移行(マイグレーション)が楽になる:依存関係が少ないので、システムごっそり乗り換えが容易になります。
  • 後任が見つかりやすくなる:「特殊な構成」がないので、一般的なスキルの人なら誰でも運用できます。

結論:引き算の美学

建築家のミース・ファン・デル・ローエは言いました。 “Less is More”(より少ないことは、より豊かなことだ)

インフラも同じです。 機能がてんこ盛りのシステムより、削ぎ落とされたシステムの方が、堅牢で、速く、美しい。

今週末、あなたの管理するAWSコンソールやサービールームを見渡してみてください。 「これ、最後に使ったのいつだっけ?」 そう思うものがあれば、勇気を持って Delete ボタンを押しましょう。 そのクリック一つが、あなたの未来の自由時間を生み出します。


AIに相談するためのプロンプト(テンプレート)

複雑化したインフラや古びたシステムを「断捨離」する際、背中を押してもらい、移行計画を練るためのプロンプトです。

あなたは「ミニマリズム」を信条とするインフラエンジニアです。
現在、私が管理している以下の「古いシステム/複雑な構成」を廃止し、シンプルにしたいと考えています。
記事にある「引き算の設計」に基づき、廃止のメリットと、スムーズな移行ステップを提案してください。

# 廃止・簡素化したい対象
*   対象: [例: 社内に置いてある物理メールサーバー(Postfix)]
*   現状の課題: [例: スパム判定の調整が大変、停電が怖い]
*   移行先候補: [例: Microsoft 365のExchange Online]

# 懸念点(捨てられない理由)
*   [例: 昔からの独自の転送設定があり、移行できるか不安]
*   [例: コストが月額数千円上がるので社長が渋るかも]

# 出力してほしい内容
1.  **断捨離のメリット**: 移行によって削減できる「見えないコスト(運用工数、リスク)」の可視化。
2.  **移行のロードマップ**: 週末を使って安全に切り替えるための大まかな手順。
3.  **説得材料**: 「月額コストは上がるが、トータルでは安い」ことを経営者に説明するためのROI(投資対効果)ロジック。