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「綺麗なグラフ」を作る前に:一人情シスがBIツールに手を出す前に考えるべきこと

「経営層から『ダッシュボードが見たい』と言われた」 「営業会議の資料作成を自動化したい」 「これからはデータドリブン経営だ」

そんな掛け声とともに、Power BIやTableau、Looker StudioといったBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入が検討されます。 色鮮やかなグラフ、自動更新される数字、ドリルダウンで詳細が見えるUI。デモを見れば、誰もが「これで我が社も変われる」と夢を見ます。

しかし、一人情シスとして断言します。 準備のできていない組織へのBI導入は、戦場に裸で飛び込むようなものです。 そこには、終わりのないデータの修正作業と、壊れたパイプラインの修理という「泥沼」が待っています。

本稿では、BIツール導入という甘い罠に陥る前に、一人情シスが冷静に確認すべき「前提条件」と、あえて「まだ早い」と判断するための基準について解説します。

1. ツール以前の絶対条件:GIGOの原則

BIツールは魔法の杖ではありません。単なる「変換機」です。 コンピュータの世界には**「Garbage In, Garbage Out(ゴミが入ればゴミが出る)」**という大原則があります。

BIが機能するための前提は、**「入力データが標準化され、クリーンであること」**です。 貴社のデータは以下の状態になっていないでしょうか?

  • 「株式会社」「(株)」「KK」などの表記揺れがSproadsheet/Salesforce内に混在している。
  • 「金額」カラムに「10,000円(概算)」という文字列が入っている。
  • 「備考」欄に重要な契約条件がフリーテキストで書かれており、フラグ化されていない。
  • 営業担当ごとにExcelの集計フォーマット(列の並び)が微妙に違う。

もし一つでも当てはまるなら、BI導入は時期尚早です。 この状態でBIを入れても、表示されるのは「間違った売上合計」と「分類不能なその他グラフ」だけです。そして、情シスは毎月末、「なぜ数字が合わないんだ」という問い合わせに対し、「入力データが汚いからです」と言い訳し、裏でSQLを叩いてデータを整形する**「高給取りのデータ清掃員」**になり下がります。

2. 「Excelで運用できない」ならBIは無理

よくある誤解が「Excelでの集計が大変だから、BIで楽にする」というものです。 これは順序が逆です。

**「Excelでロジックが完璧に固まっており、手作業で回すのが『量的に』限界に来たから、BIで自動化する」**のが正しい順序です。

BIツールは「固まったロジック」を自動で回すのは得意ですが、ロジック自体を試行錯誤する柔軟性はExcelに劣ります。 「この数字とこの数字を足して、やっぱりあっちのシートの係数を掛けて……」という試行錯誤の段階にある業務をBI化しようとすると、要件定義が終わらず、開発(設定)工数だけが膨れ上がります。

一人情シスの判断基準:

「今の集計レポートの作成手順書を、新人に渡して再現できますか?」

もし「秘伝のタレ」のような属人的な調整や、「なんとなくの肌感覚」でのデータ修正が入っているなら、それはまだシステム化(BI化)できる段階にありません。まずは業務プロセスの標準化が先です。

3. インフラ維持の隠れたコスト

BIツールは「データを見る」ツールですが、見るためには「データを集める」仕組みが必要です。 これをETL(Extract, Transform, Load)やデータパイプラインと呼びます。

  • Salesforceからデータを抜く
  • Kintoneからデータを抜く
  • CSVを読み込む
  • それらを結合して、DWH(データウェアハウス)に入れる

このパイプラインは、驚くほどよく壊れます。 「SaaS側のAPI仕様が変わった」「誰かがマスタの列名を勝手に変えた」「全角スペースが混入した」。 パイプラインが止まると、ダッシュボードの更新が止まります。 すると、翌朝の経営会議の直前に社長から電話がかかってきます。 「数字が更新されていないぞ!」

一人情シスが、深夜や早朝にAPIのエラーログを調査し、データの不整合を直す。そんな生活に耐えられますか? BIを導入するということは、「データの鮮度と品質に対するSLA(サービスレベル合意)」を経営と結ぶということです。その覚悟とリソースがないなら、手を出してはいけません。

4. 「やらない」という戦略的判断

では、どうすればよいのか。 答えは**「Excel(またはスプレッドシート)を極める」**です。

100人規模の企業であれば、データ行数は数万〜数十万行程度でしょう。最近のExcelやGoogle Sheetsなら十分に扱える量です。 「ダッシュボードが見たい」という経営層には、Google Sheetsでピボットテーブルとグラフを使った簡易ダッシュボードを作って共有しましょう。 それで十分な場合が9割です。

「やらない」と判断するロジック(対 経営層):

「BIツールの導入には、ライセンス費用だけでなく、データの整形やパイプライン維持に多大なエンジニア工数(=見えないコスト)がかかります。 現状のデータ品質と集計頻度であれば、まずはスプレッドシートでの運用を徹底し、『見るべき指標』と『入力ルール』が固まるまでは、高価なツールの導入を見送るべきです。 まずは、データ入力の徹底(入力率100%)から始めましょう」

これは「逃げ」ではなく、投資対効果を最大化するための賢明な「ステイ」です。

5. 将来、再検討するための条件(トリガー)

もちろん、永遠にExcelでいくわけではありません。 以下の条件を満たした時が、BIツールへの招待状を受け取るタイミングです。

  1. 「データの1000本ノック」が終わった時
    • 経営層が「見るべきKPI」を確立し、その定義が3ヶ月以上変更されていない。
  2. Excel/Sheetsが悲鳴を上げた時
    • データ量が100万行を超え、ファイルを開くだけでPCが固まるようになった。
  3. 専任のデータ担当者が採用できた時
    • 情シスとは別に(あるいは情シスの部下として)、データの整備と「数値の誤り」に責任を持てる担当者がアサインされた。

結論:まずは「泥臭い」データ整備から

キラキラしたダッシュボードの裏側には、泥臭いデータのドブさらい作業があります。 そのドブさらいをする覚悟とリソースがないままツールだけ入れても、出来上がるのは「ゴミの可視化装置」だけです。

一人情シスが目指すべきは、「映えるグラフ」を作ることではありません。 **「正しい数字が、必要な時に、止まらずに出る」**状態を作ることです。

そのための最短ルートは、Power BIを買うことではなく、営業部門の入力画面に「必須入力チェック」を入れることかもしれません。 まずは足元を見ましょう。デジタルデータという名の「原石」が、泥にまみれていませんか?


AIに相談するためのプロンプト(テンプレート)

「BIツールを入れたい」と盛り上がる経営層に対し、データ整備の重要性を説き、現状の成熟度を診断してもらうためのプロンプトです。

あなたはデータ分析基盤のアーキテクトです。
私の会社(社員数[例: 100名])の社長が「Tableauを入れてデータ経営をしたい」と言っていますが、現場の私はデータが汚すぎて無理だと思っています。
以下の現状を踏まえ、BI導入の「Go/No-Go」判定と、まずはExcelで何をすべきかのアドバイスをください。

# データの現状(GIGOチェック)
*   入力徹底度: [例: 営業日報は4割の人が未入力。月末にまとめて入れている]
*   マスタの状況: [例: 取引先名が「(株)A」「株式会社A」とバラバラ]
*   集計ロジック: [例: 担当者がExcelで手作業で「この案件は特殊だから除外」といった調整をしている]

# 出力してほしい内容
1.  **導入可否診断**: 今BIを入れたらどうなるか(失敗シナリオ)を具体的に予測してください。
2.  **経営層への提言**: 「今はツールを買う時期ではなく、データを綺麗にする時期だ」と納得させるための、ロジカルな説明文。
3.  **先行タスク**: BIを入れる前に、Excel運用で最低限クリアしておくべき「データ衛生基準(Hygiene)」のリスト。